教会建築が問いかけるもの

人の内面に作用する空間と「光」

「建築によってつくり出される空間は、人の内面に働きかける強さ、力を備えるべきだ」。石川建築賞、金沢市都市美文化賞などを受賞し、木造建築の構造美で知られる建築家谷重義行さん(谷重義行+建築像景研究室主宰、金沢市)は、建築の空間構成の在り方を、そう提示する。建築の中で、とりわけ宗教的な施設にとって空間の質と内面的なかかわりは一層、重要性を増すに違いない。現在、キリスト教会建築に取り組む谷重さんに、空間へのアプローチを聞いた。

「強さと力を備えた空間が、記憶を共有する開かれた場を生み出す」という谷重さん。人々の記憶に残る魅力的な空間を多く共有することが、活き活きとした生活環境をつくり出すと考えている。教会もその一つである。建築家が教会を造る機会は、そう多くはない。専門の建築設計業者を除いて、生涯にあるかないかだろう。救い、安らぎを求める精神の多面性が凝結する空間。他の建築と異なって、宗教建築は心理的な効果、神聖な祈りの磁場をより強く求めてくる。

この教会で、「祈りのための素朴な空間と人々が集う喜びに満ちた空間」を意識したという。空間が、喜びを生み、精神性の高みへと誘う仕掛けは、天から降り注ぐような光を生みだす高窓の採光にある。

礼拝堂は、屋根を支える三百本の柱がだ円形に並び、骨格を露わにする建築だ。柱の隙間から、時間とともに幾筋もの非日常的な変幻する光が降り注ぐ。柱、梁が壁の内側に隠されることなく現れ、構造体をなぞることで、率直な空間を形づくる。木の繰り返しが生み出す光の質は祈りへと導く。
その空間の強さによって、祈りを基礎とした教会活動は支えられるだろう。「やがてコミュニケーションを誘発し、町の新しい記憶に」と期待する建築に、建築空間のアイデンティティーと、健やかな精神性を常に問い直している。(報道部・黒谷正人)